Chick Corea / The Song of Singing
Chick Corea(p) Dave Holland(b) Barry Altschul(ds)1970, BlueNote
ジャズ、こと65年あたりのモードジャズが一通りやり尽くされてフリーやらエレクトリックやらが実験されるようになる時期、アルバム全体はそこまで成功しているとは思えないものの、その中の一曲が一際輝きを放っている例がいくつかあるように思う。
チック・コリアがBlueNoteに1970年に録音した『The Song of Singing』もそういったアルバムのひとつであり、そして冒頭に収録されている『Toy Room』という曲がその輝きを放っている曲ということになる。最近CDを整理していて久しぶりに聴いてみたのだが、やはりこの『Toy Room』が美しいのでそれ以来何度か聴き返している。
1970年と言うと、チックはアンソニー・ブラクストンとのCircleというバンドを結成し、いくつかのアルバムを発表している。これはいわゆる前衛派であるブラクストンとのコラボレーションであり、大きくフリーに触れた内容らしいが、これはかなりの失敗作というのが世間の評判。僕は残念ながら未聴だが、チックとブラクストンという(今思うと)異色の組み合わせには興味をそそられる。
本作『The Song of Singing』もそういった当時のチックの問題意識を反映して、研ぎすまされた空気感を漂わせる演奏が続くが、少しフォーカスが絞れていないと言うか、聞き所が少ない印象がある。
しかし冒頭に収められているデイヴ・ホランド作の『Toy Room』は、まさにトイピアノで演奏しているかのように軽さのあるタッチとリズムで演奏される短いテーマと、断片的なフレーズと和音を飛散させていくようなアドリブがなかなか絶妙で、この1曲のためにこのアルバムを買ってよかったと思わせるに足りる。
ただし。本作の数年前に発表している『Now He Sings Now He Sobs』のほうは全編充実した内容であるから、もしこちらを未聴の場合はこちらから聴くのが正解。